【み】「みにくいアヒルの子」と「みっともない」と
あなたは、アヒルの中に生まれついた、白鳥だ。
レベルの低いものの中にいる、レベルの高いものだ。レベルが高いが故に、レベルの低い者たちの羨望や憎しみを受け、疎外され、苦悩している。
あなたは、みにくいアヒルの子だ。
でも、あなたの実態は、白鳥の子だ。アヒルの子としての苦悩は、いつの日か白鳥として飛び立てばすべて無に帰すだろう。なぜなら、あなたは素晴らしい白鳥の子で、無様なアヒルとは格が違うのだから。
このメッセージは、ナンセンスだ。
残念ながら、あなたは普通の人間で、他の普通の人間と比べて何か特別なことがあるわけではない。あなたはアヒルの子の中に紛れ込んだアヒルの子だ。
あなたは血によって空を飛べるキキではないし、強力な魔法の力を親から受け継いだハリー・ポッターでもない。普通の人間の親から生まれた、普通の人間の血を受け継ぐ、ごくありきたりの普通の人間だ。
自分が特別な人間で、未来の成功を約束されていて、今はつらくてもいつか必ず幸せになれると考えているのなら、あなたはとんでもない愚かものだ。普通の人間は、普通の人間にしかなれない。運が良ければ幸せになれるし、運が悪ければ幸せになれない。
でも、絶望する必要はない。
あなたは普通の人だから、みにくいアヒルの子じゃなくて、普通のアヒルの子。自分は他人と違うと思って困惑したり、苛立ったり、逃げたくなったり、そんなことが当たり前なのが、普通の人なのだから。
知っておくべきなのは、普通だからこそ苦悩して、普通だからこそ喜びがあるということ。みにくいアヒルの子という幻想は、あなたを内側から腐らせる。みにくいアヒルの子だから他人と違うのは仕方がない、という誤解は、あなたを独りよがりの世界へと引き込んでしまう。他人と違うと感じて悩むのは、あなたが普通の人だからだということを理解しなければならない。
そうして初めて、あなたは自分と他人を理解する一歩を踏み出せることだろう。
かく言う私も、みにくいアヒルの子という幻想から抜け出せていない。それだけ、このみにくいアヒルの子幻想は、強力なのだ。
長ったらしいので、アヒル幻想と呼ぶことにする。
アヒル幻想に襲われると、私は奇妙な高揚感と万能感に包まれる。だって、私は白鳥なんだから。そこいらにいるアヒルどもとは、本来住む世界が違うのだ。
と、そこに現実が襲いかかってくる。
私は白鳥ではなくアヒルだった。無力で、取るに足りなくて、どうしようもない存在だった。
その現実が、私の心をしめつける。
アヒル幻想から立ち直る方法は、開き直ることだけである。
アヒルで何が悪い？ 取るに足りない無力な人間で、何が悪い？ 人と一緒で、何が悪い？ みっともなくて、何が悪い？ そう開き直ることで、私は立ち直ることができるのだ。
普通だからこそ苦しいし、普通だからこそ感じられる喜びがある。
みっともなくて、みにくい普通の人間で、私は良かったと思う。
滝澤（2009/08/16）
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