【た】 「たんこぶ」と「体調」と
マンガで喧嘩のシーンの後に、負けた側の人間にお約束として描かれるの三種の神器がある。バッテン絆創膏・目のまわりの青タン・たんこぶである。小さい頃、私はこの三種の神器のすべてが、マンガの世界だけの記号だと思っていた。
バッテン絆創膏は経験がないが、青タンとたんこぶは、その後1回ずつ実際に経験した。青タンは、至近距離で蹴られたサッカーのボールが顔面にぶつかったとき、たんこぶは頭を戸棚にぶつけたときである。
正直なところ、目のまわりの青タンは、親に言われて鏡を見て気付いた程度なので、あまり実感はなかった。しかし、たんこぶは別格であった。
「あっ、たんこぶ！」
うれしくなって、私は思わす声を上げたものである。
痛む頭をおさえると、ぷっくりとしたふくらみが。
ふくらみの感触が面白くて触るが、触るほどひりひりと痛む。それでも、ぽてっとふくらんだ絶妙な柔らかさが楽しくて、ついつい触ってしまう。
母親に、たんこぶを触ろうとする手を叩かれて、タオルで包んだ氷で冷やされたのを憶えている。
幸運にも、たんこぶの経験はその1回きりである。
いや、幸運に、ではなく、残念ながら、か？
わざわざ意図的に頭をぶつけて作るほどではないが、どうせアクシデントで頭をぶつけて痛い思いをするなら、たんこぶにできてもらったほうがうれしい。
しょせん、人間は体に悪いものが好きなのだ。
油や塩がたっぷりの食品は大好き。ビール（もしくは類似の酒）なんて、プリン体99%カットとか、カロリー半分とか、まずくて飲めたもんじゃない。
人間の味覚は、本来、腐ったものや毒があるものを「まずい」と感じることで、摂取しないようにしていたはずである。それが、どこかで狂ってしまったのだ。体に悪い成分を、うまいと感じるようになってしまった。
たぶん、進化の過程で価値基準が逆転してしまったに違いない。
すると、やはり、将来的には、たんこぶが気持ちのいいものになるのだろうか？
「わー。ぷよぷよしてるー。ひりひりするー。すごーい！」
なんてことに。
ふむ。子供のときからたんこぶを楽しんでいた私は、進化した新人類であるに違いない。
どおりで、酒も好きだし、体に悪いのを承知で日に何時間もパソコンに向かっているし、慢性鼻炎ですすった鼻はかむのが面倒になって飲んでしまうし、空腹時にバファリンを飲むし、夜に爪は切るし、とにかく私は悪いことをし放題なのだ。
そして、そのすべてを私は楽しんでいる。
ああ。私ってば、本当に悪いやつ（体に）。
そりゃあ、体調も悪くなるわな……。
体調不良ってことにして、明日会社を休もっかな。
滝澤（2009/04/26）
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