『変人バンザイ』
はて。
囲まれてしまった。
どうしたものか。
電車でのひとコマ。
私はドア脇のスペースに立ち、本を読んでいた。電車はさほど混んでおらず、快適。が、途中で停車した駅で、人がたくさん乗ってくる。
ほどなく、私は三名の人物に囲まれてしまった。何かの偶然で、みんな私のほうを向いている。
左から順に紹介しよう。
一番、柔和な顔立ちの蟹江敬三さん。
この人、妙に動きがゆったりとしている。ゆーっくり手を上げて吊り輪をつかみ、ゆーーっくりボケットに手を入れ、ゆーーーーっくり携帯電話を取り出し、何をするでもなくゆーーーーーーーーっくりとポケットに戻す。手を体の脇におろすのでさえ、とてつもなくゆっくり。
見ているこっちまで、なんだかのんびりほんわかした気分になる。
二番、おとなしめのメイクをした扇千景さん。
この人は一転、妙に動きが素早い。電車内のあちこちを見回すのだけれど、その首と目の動きが、とにかく速い。
くいっ、静止して見る。くいっ、くいっ、見る。くいっ、見据える。くいっ、くいっ、くいっ、くいっ、じろり。
あーっ。お願いだから、もうちょっと落ち着いてよ。せっかく蟹江さんのおかげでのんびり気分になりかけてたのに……。
三番、ちっちゃな杉本哲太さん。
この人も忙しい。なにかアレルギーでもあるのだろう。ずーっと、鼻をすすっている。鼻をすする合間に、たぶん鼻がむずむずするらしく、口と鼻を小動物のように動かすのだ。
すん、すん、すん。もご。すん、すん、すん、すん。もごもご。すん、すん。すん、すん、すん、すん、すん。もごもごすん、もご。すん、すん、すん。
ああ。笑ってはダメだ。でも、どう見てもハムスターに見えるんだよな。ぷぷっ。
本に意識を集中しようとしても、どうしても気がそれてしまう。
すんすん、くいっくいっ、ゆーーーーくり。
邪魔くさいやらおかしいやらで、私はどうすればいいの？ という状態。
いったい、何なんだ、この人たちは。
お笑いグループとかだったら、どうしよう。お笑いトリオのゲリラライブ。
蟹江さんがのんびりボケて、扇さんがくいっとツッコミ。杉本さんは体の動きだけでウケをとるキャラ。ネプチューンで言えば、蟹江さんが堀内、扇さんが名倉、杉本さんが原田、という構成か。
このお笑いグループの名前は……
「か」にえけいぞう
「お」おぎちかげ
「す」ぎもとてった
カオス！
まずい。三人が発する変人ビームが交錯すると、異界への扉が開き、世界が混沌に飲み込まれてしまうのでは！？
この三人を引き離さなければ！
と、私が一人で世界を救う気になっているところで、電車は次の駅に到着。杉本さんが下車した。
よかった。
これで世界は救われたんだ。
私は自己満足にひたっていた。
でも残った蟹江さんと扇さんは、相変わらず漫才のような動きを続けている。
とくに、蟹江さんがいい。ゆーーーーくり大あくび。彼ほどあくびの似合う男はいない。ベスト・アクビスト賞かなにかをあげるべきだね、あれは。
二人でも、じゅうぶんに面白い。
もしかしたら、もともと二人組の漫才コンビだったのではないだろうか。
かにえ「け」いぞう
おおぎ「ち」かげ
で、グループ名は「ケチ」。
いや、ちょっと言葉が良くないな。
じゃあ、「蟹扇」でどうだ！？
字が難しすぎて、書ける人がいないに違いないぞ。
滝澤（2002/11/30）
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