『贖罪』
私は人間が嫌いである。
数多くいる人間の中でも、自分がもっとも嫌いである。一般の人間に対しては「死んでくれればいいのに」と思う程度で済んでいるが、自分に対してはときに積極的に「殺したい」と思うレベルにまで到達する。
それが、私の罪。
世の中には、主観的にみて、二種類のものしかない。
「どうでもいいもの」と「どうでもよくないもの」だ。そして、「どうでもよくないもの」は、たいていの場合、愛憎という矛盾を抱えている。
いとし、にくし。
憎いと思うものは、そう思う当人にとっては、それだけ重要なものなのだ。まったくの無価値であれば、それは「どうでもいいもの」であり、そもそも一顧だにされない。憎いと思えるのは、それが「どうでもよくないもの」だからだ。憎い気持ちが強ければ強いほど、それだけ「どうでもよくない」度が高い、ということになる。
裏を返せば、憎いものは、同時に愛しくもあるのだ。
私は人間が嫌いである。
それは、人間が好きでもある、ということに他ならない。
とりわけ、私は自分が嫌いである。
それは、私がとりわけ自分を好きだ、ということでもある。
常に他人よりも自分自身を憎んでいる私は、常に他人よりも自分自身を愛している。
それが、私の罪。
いや、それは、罪などではないのだろう。
きっと、誰もが持っているもの。
誰もが、自分自身のことが一番かわいいと思っているはずだ。
どうしても私がわからないのは、他人と付き合う中において、その自己愛とどうやって折り合いをつけていけばいいのか、ということだ。非常にうまくやっている（ように見える）人もいる。
私は、どうしても、それがうまくできない。
折り合いがつかず、不安定なまま。
いきおい、他人と一緒にいることがストレスになり、一人で自分の殻に閉じこもる。
もちろん、自分の殻に閉じこもることで自分の身を守ろうとしているのだが、それは「孤独」という刃で自分自身を傷つける行為に他ならない。
いっそ、すべての人から「どうでもいい人」と思われて、自分自身でも「どうでもいい人」と思えるような、そんな人間になれたら、どれほど幸福だろう。
自分なんか、愛したくない。
自分なんか、憎みたくない。
ありえないことだけど。
願うだけ時間の無駄だけど。
それでも、どうしても考えてしまう。
それこそが、もっとも愚かしい私の罪。
私は、冬の惑星に生まれた。
永遠の冬。
寒くて、自分の手に自分の息を吹きかけ、自分の身を抱きしめて、ただそれだけで生きていく。そんな星に生まれた。
私の氷が溶けるには時間がかかるけど、太陽はそんな時間を待ってはくれない。私の遅いリズムは、いつだって他の星で生まれた人とは違っていて、みんな私に遅すぎると言って、先に行ってしまう。
太陽は明日も昇るけど、明日も沈むんだ。
この世界の太陽は、私を溶かすにはいつだって不十分。
永遠に春が来ないのは、わかっている。
その春のない世界で、私はどう生きるのか。
それを見つけられないことが、私の罪。
もしかしたら、春か来ないと思い込んでいることそのものが、私の罪。
果たして、こんなことを書くことで、贖罪になるのだろうか。
まったく。
滝澤よ、そろそろ言い訳をするの、やめたらどうだ？
滝澤（2002/06/29）
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