『拝啓、滝澤真実様』
あなたが亡くなってから、もうじき一年が過ぎようとしていますね。
わたしは、あれからずっと、抜け殻のようです。あなたの不在に慣れることは、なかなかできそうにありません。まだ時々、あなたがいるような気がして、あなたと共に在る喜びを味わえるのではないかと思ってしまう瞬間があります。
あなたは、もう、いないのに。
痛いのです。
あなたを思うと、わたしは苦しいのです。
慣れなければいけないと知りつつも、わたしはどうしてもあなたのことを考えてしまいます。あなたがまだ生きていた日のこと、努力をすれば必ず幸せになれると信じていた日のことを。
わたしは、幼かった。
何も、見えていなかった。
努力を重ねても、どんなに耐えつづけても、縁のない人のところには、幸福は訪れない。世界は、誰か一人を幸せにするようには、動いていない。運や、偶然といった言葉で語られる要素によって、すべて決められてしまうのですね。
ある人は、それを宝くじだと言いました。
宝くじは買わなければ当たらないよ、と。
でも、宝くじを買うだけの財力が残されていない人にとって、宝くじを買うなんて贅沢はできませんよね。
だから、縁のない人には、それは、一生縁がないのです。
わたしは、それなりに幸せです。
瞬間、瞬間に、どうでもいいことをしゃべり、つまらないことに喜び、笑って。
それでも、どうしようもなく憂鬱になってしまうことがあります。たまに、あなたがまだ生きているように錯覚をしてしまい、宝くじを買えるような気持ちになる、そんな瞬間があるのです。
その結果に待っているのは、結局自分には宝くじを買うことができないんだ、という冷酷な現実だけなのですが。
それが、時折、わたしをどうしようもなく憂鬱にするのです。
滝澤真実様。
あなたが亡くなってから、もうじき一年が過ぎようとしていますね。
これからの一年。その先の一年。わたし自身の死まで積み重ねられるであろう、数多くの一年を、わたしはどう過ごせばいいのでしょうか。
わたしには、あなたの不在を忘れることは、できそうにありません。もしかしたら、あなたが復活するのではないか。そんな思いに駆られることさえあります。
あなたのいない世界は、わたしにはくすんで見えます。
あなたがいない世界で、わたしは生きていたくありません。
もちろん、わたしは間違っているのかもしれません。あなたはわたしの見えない場所に行ってしまっただけで、どこかで生きていらっしゃるのでしょうか？ 愚かなわたしの目が、物事を正しく見ることができなくなっているだけなのでしょうか？
そんな可能性を、わたしは信じてもいいのでしょうか？
もう少し、ここで探してみます。
ここで、普通に社会人としての生活をしながら、あなたを探してみます。
それでも見つけられなかったときには、別な場所に行きましょう。わたしは、物に縛られすぎています。コンピュータも、そう。本も、そう。ＣＤも、そう。お金も、そう。
わたしはそれらをすべて捨てて、あなたを探す旅に出ましょう。
旅先であなたが見つかる可能性が、どれほど低くても。ここであなたを見つけられそうにない、と納得できた時点で、わたしは旅に出ましょう。
滝澤真実様。
あなたが粉々に砕け散り、私の前から消えてしまってから、もうじき一年が過ぎようとしていますね。
わたしに、あなたのかけらを拾い集めることができるでしょうか？
こんな、わたしに。
滝澤（2002/05/26）
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