『死ってる？』
たとえば、だ。
舌を噛み切ろうとしたことは、あるだろうか。
私は、小説の描写のために、やってみた。
これがまた、劇的なまでに痛い。
以前、時代劇などで、口を閉じたまま舌を噛み切り、秘密を抱えたまま死んでいく人間が出てきたのを見たことがある。主人公いわく、
「くそう。舌を噛みやがった」
しかし、これは、うそっぱちである。
舌を噛もうとしたら、口を開け、舌をおおきく外に出した状態でなければならない。 やってみればわかるが、口を閉じたままでは、食事中に間違って舌を噛んでしまった程度のことしかできないのだ。
しかし、まるであかんべーをするように舌を出し、噛み切るようなシーンは見たことがない。あれは、実際に試したことのないやつが描写してるせいだね。
そうそう、舌というのは驚くほど弾力があって、簡単に噛みきれるものじゃない。噛み切ろうと顎に力を入れれば入れるほど、痛いから舌にも力が入って硬くなるのだ。これは、並大抵の覚悟でなければ、噛み切るなんて芸当はできないものだ。
少なくとも、私のような軟弱者には無理だね。
たとえば、だ。
絞め殺されそうになったことは、あるだろうか。
私は、小説の描写のために、やってみた。
自分で自分の首を締めてみる。
まず思ったのは、意外に呼吸はできるのだな、ということ。呼吸が止まるような首の締めかたは、ほとんどない。気管というのは意外に頑丈にできていて、そうそう押しつぶして窒息死させる、という真似はできないようだ。
興味深いのは、首も締める位置によって、症状が違うということだろう。
首の上のほうを締めると、呼吸が苦しくなる。しかし、口での呼吸ができなくなっても、なぜか鼻での呼吸はできるのだ。おそるべし、人体の神秘。
首の下のほうを閉めると、息苦しさよりも、何か別の圧迫感を感じる。咳き込んでしまう感じからして、やはり気管が圧迫されているのだろうが。首の上のほうを締めたときよりも弱い力で、かなり苦しくなってしまう。きっと、殺しの達人などは首の下のほうを狙うのだろうな。
あとは大穴で、首の横、というのがある。頚動脈がしまり、脳に血が行かなくなって、倒れる。いや、もちろん倒れるところまでやったことはないけど。頭がぼーっとなってくるのだ。
どのみち、大変なことには違いない。
普通では、絶対に不可能な作業だ。
逆に言えば、それだけの覚悟があれば、死ぬ／死なせることは、可能だということだが。私レベルの軟弱な人間には、とうていできそうにない。
まあ、それが正常なのだろう。
あ、ちなみに、実験のやりすぎにはご注意。
舌の噛みすぎは、ずっと痛みが残るし、首の締めすぎも、ずっと喉にいがらっぽさが残る。
みなさん、どうか、ご自愛を。
滝澤（2001/12/09）
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