『ようし、ここいらで容姿について考えてみるか』
私は、自分の容姿が嫌いである。
まあ、いろんな人に話を聞くのだが、自分の容姿が好き、という人にはお目にかかったことがない。だから、一般的に、容姿とは嫌われ者であるらしい。
だが、それは自分の容姿に限った話。
他人の容姿に関して言えば、美しい容姿は好かれやすく、醜い容姿は嫌われやすい。しごく単純な話である。
私の友人に、美女がいる。
１００人が彼女を見れば、１００人全員が口をそろえて「きれいだねー」と言うような、そんな女性である。が、やはり当人は、自分の容姿が嫌いなのだと言う。外見ばかりを評価され、中身を見てもらえない。この外見でなければ、自分には価値がないのだろうか、というコンプレックスにさいなまれている。
ふむ。
確かに、良し悪しではある。
が、好かれない容姿よりは、好かれる容姿のほうがいいと思うけどね。という会話をよくするのだが、いつでも私と彼女の話はすれちがう。美しいゆえにモテすぎる彼女と、醜いゆえにモテなさすぎる私。理解しあえるはずもない。
こういうことを書くと滑稽だが、実は、私も私なりに自分の外見的美しさにこだわった時期がある。が、ダメだった。「これでダメなら、あとは整形でもするしかないのだ」ということに気づいた瞬間、どうでもよくなってしまった。
「容姿」とは言え、その最も大きな部分を占めているのは、顔なのだ。私のように巨大な頭蓋に恵まれた人間は、脳容積が多いという利点はあるものの、とにかく顔がでかい。これが、一般では美しくない、とされる。首から下をどれだけ美しくしたところで、肝心の一箇所に致命的な欠陥があるわけだ。だから、私はどんなに自分の美しさに執着したところで、ついに美しいと評価されることはなかった。
今、私は、かなり汚い。
それなりに脂肪のついた肉体は、デブ専に好かれるには細すぎ、でも、一般的に言えば太すぎ、中途半端である。そして、巨大な顔。髪の毛はくせっ毛で伸び放題のぼっさぼさ。無精髭も伸び放題だけど、うすくてまばらなので貧相なちょび髭と化している。服装は、いつも同じ。色落ちのした履き古しのジーンズは、あちこち擦り切れている。アイロンのかかっていないしわしわのシャツは、もちろんジーンズの中にきっちりと入れている。（滝澤家は厳格だったのさ）
そんなわけだから、とにかく私は汚い。
それをフィルターにしているのだ。外見で人間を判断するようなレベルの低い奴と言葉を交わすのは時間の無駄なので、汚い男が嫌いな奴は寄り付くな、というシグナルなわけだ。おかげで、私を評価してくれる人は、私の内面を評価してくれている。それがありがたい。
なんていうのは、言い訳だ。
ようするに、私は美の落伍者。美しくあることを諦め、負け惜しみを言っているに過ぎない。
仮に目の前に、美しい人間と、美しくない人間が、いたとする。
どちらも初めて会う人で、内面がどんなであるか、まったくわからない。今、何らかの制約があって、どちらか一人としか会話できない、としよう。選ばなかったほうの人とは、二度と会えないかもしれない。
そこで、あなたは、どちらと話すことを選びますか？
どっちでもいい、と言い切れるほど強い人は、そうはいないだろう。誰だって、美しい人間を選ぶはずだ。
私は容姿が汚いから、仮にどんなに内面が素晴らしくても、その内面を知ろうと思ってはもらえないことが多い。
それが、現実なのだ。
ようするに、なぜ「容姿」という存在が嫌われるかというと、そこに元凶があるわけだ。容姿は入れ物にすぎない。本当に大切なものは、外見的な美醜には関係なく、その中身なのだ。
ところが、最初に目に飛び込んでくるものは、間違いなく容姿である。好ましい容姿であれば、好ましく思う。好ましくない容姿であれば、好ましくなく思う。
容姿がすべてではない、肝心なものはもっとほかにある、ということを知りつつも、どうしても影響されてしまう。
それが、現実。
容姿と内面は乖離しているのに、それでも、容姿に左右されてしまう。
内面が大切だといいつつ、それでも、容姿に影響されてしまう。
だから、みんな、容姿が嫌いなんだ。
私は、容姿が美しくない。
内面も、この上なくヘナチョコである。
でも、どうやら、一部のマニアには、そのヘナチョコっぷりがウケるらしい。おかげで、マニアックな滝澤ファンというのが、数名ではあるが、存在している。その人たちは私を熱烈に支持してくれる。その支持の言葉を聞くたびに、私は誇張でなく、うれしさのあまりに泣きそうになってしまう。
でも。
たまーに、思ってしまうのだ。
俺は、みんなが思ってるような人間じゃないよ。
んなこたぁ、知ったこっちゃないのだが。
他人がどう評価をするか、私が決めることじゃないのだが。
でも、思ってしまうのだ。
やっぱり、毎朝髭を剃り、整髪料を使って髪をビシっと決めて、衣類の種類も増やし、洗濯後にはきちんとアイロンをかけ、もちろん今風にシャツのすそはズボンの外に出しておく。増えすぎた体重を落とすために運動して、筋肉をビルドするためのトレーニングなんかもして。
そうしたほうが、いいのかな？
そんなものでは変わらないところを評価されているのは知っている。
でも、普段評価されているものが目に見えないものだけに、不安になるのだ。目に見えないもののほうが大切だと知りつつ、その存在を確信できない。
こんなことに揺れている自分が、嫌い。
確信を持てない自分が、嫌い。
滝澤（2001/09/02）
このページの作品に対するご意見・ご感想などは、E-Mail : maniactaki＠gmail.comまでお願いいたします。
※スパム対策のために「＠」を全角にして掲載しています。半角に直してお送りください。