『独白―思考実験―』
私は今、自分が幸せではないと思っている。
だからこそ、あれこれ悩み、試行錯誤を繰り返しながら、幸せになれる道を模索しているのだと言える。
が、ふと思うのだ。
自分が望む幸せは、絶対に手に入らないのではないか。
わたしがそんな弱音を吐くと、人は言う。
＜そのうちに、かならず手に入るよ＞
そのうちにというのは、いつなのだろう。
いつまでこれに耐えていれば、ちょっとはマシになれるのか。
答えは誰にもわからない。
もう、私は疲れた。
ことあるごとに、「もしかしたらこれは幸せのはじまりなのか」と期待をして、ほどなく落胆する。この感情的な起伏の繰り返しに、私は疲れた。
だから、いつか訪れるかもしれない幸福を夢見るのは、やめにする。
そんなものが自分の身に訪れるなんて、ありえないことだと思えばいい。
どこかで間違いが起きて、万が一幸福が訪れたりすれば、それは素直に喜ぶだろう。
だが、そんないつくるかわからないものを期待しつづけることで精神をすりへらすのは、もう、うんざりだ。
発想を変えてみる。
今は、実は、幸せなのかもしれない。
私が気付いていないだけで。
たしかに、そういう側面があることは否めない。
そうすると、見えてくるものがある。
ようするに欲張りなのだ、私は。
何かが手に入る。すると、次には別の何かが欲しくなる。そして、いつまでたっても「あれが欲しい、これが欲しい」とダダをこねつづけるわけだ。
見苦しいったら、ありゃしない。
この根性をなおさない限り、私が幸福になることなど、ありえないのだ。
だが、ふと思う。
もしも今の状況に幸福を感じ、満足したら、私はどうするのだろう、と。
その幸福を維持するために、あらゆる努力を積み重ねるに違いない
しかし、維持のために使われる力は、どこか頼りなく見えてしまうのは、私だけなのだろうか。前の進もうとする力ではなく、そこにとどまろうとする力。
自転車と同じで、前に進んでいる間は安定していても、とどまろうとすると途端に外部からの衝撃でバランスがくずれやすくなる。
苦労した末に手に入れた幸福が、こうして崩壊していくさまを想像すると、なんともやりきれなくなる。
維持しつつ、前進をつづけるようなことが、私にできるのだろうか？
そもそも「前進しよう」という強力な衝動が、「幸せになりたい」という願望からきているものだとすれば、幸せは私から前進することへの衝動を奪うに違いない。
それは、幸せなことなのか？
私は幸せになれない、とあきらめることで、私はやはり「幸せになりたい」と思わなくなるのだろう。やはり、前進への衝動は失われてしまうに違いない。
どう考えても、私はやっぱり幸せになれそうにない。
机上の空論で「もしも」とか「仮に」とか、そんな想定ばかりをしているわけだから、正しいかどうかもわからないが。
正しいかどうかわからない、ということは、正しいかもしれないし、間違っているかもしれない、ということ。
結局は、信仰に落ち着くしかない。
いや、変な宗教にハマっているわけではないので、あしからず。
私は、私が感じているものが「正しい」と、信じますか？
私は、「私は幸せになれる」という未来の可能性を、信じられますか？
信じたい。
心の底から、そう思う。
でも、素直に信じられるほど、私の心はまっすぐではないようだ。
きっと、私は己の「前進衝動」にまかせて、これからもジタバタしながら生きていくのだろう。
言葉を連ねることで、自分を変えようと努力することだろう。
でも、いつの日か、その努力が無意味に思えてくる「終わりの時」がやってくるに違いない。今でさえ、こうして書くことの意味を、三割ほど疑っている自分がいるのだから。
本当は、無意味なんじゃないの？
そんなこと、信じたくない。
心の底から、そう思う。
でも、つい信じてしまいそうになる、弱い自分がここにいる。
さて、どうしたものかな……。
滝澤（2001/05/31）
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