『星の向こう』
私は、北海道の生まれである。
父親の転勤で北海道を離れてから約十年後、大学生の時に、私は北海道を再訪する機会に恵まれた。
しかし、再訪した北海道は、なんの変哲もない田舎で、残念ながら「帰ってきた」という実感を得ることはできなかった。
昼の間は。
その夜は、新月だった。
満天の星。
無数の光点が、夜空を見上げる私めがけて降り注いでくるように感じられる。
その瞬間、私の記憶の底に眠っていた光景が、よみがえってきた。
この星空。
私は、覚えている。
私は、帰ってきた。
そう確信した。
さらに五年ほど後。
私はモンゴルを訪れた。
モンゴルの草原で見る星は、北海道で見た星よりも、多かった。
闇と、無数の光点だけの世界。
私は、星に満ちた空気に包まれ、星を呼吸する。
心のふるえが、止まらなかった。
そして今、私は東京の星を見上げる。
見える数は少ない。
でも、この星は、つながっているのだ。
今この瞬間、私と同じように星を見上げている人と、私はつながっている。
そして、同じように星を見上げていた過去の私とも、つながっている。
この星の向こうにいる人よ。
そこにいてほしい。
私も、ここにいる。
滝澤（2001/02/18）
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