『年頭の辞』
私が死にたかった時、落ち込む私にその人は言った。
ベッドに入って眠ると、今日の自分は死ぬ。
今日の、今この瞬間の自分は、二度と生き返ることがない。
明日は、新しい自分として生まれ変わっている。
眠って、二度と目が覚めないかもしれない。
だから明日のことなど考えずに、今日を悔いのないように生きなさい。
正直、私には理解できなかった。
今日がこんなにも苦しいのなら、明日が今日よりも良くなる可能性を信じられないのなら、どうして生きている必要があるのだろう。
いつも重苦しくのしかかってくる、過去。
絶望の繰り返しの、現在。
光の見えない、未来。
そう、私は死にたかった。
その圧倒的な気持ちの前には、どんな言葉も、その人の言葉さえも、無意味だった。
しかし、私の中には、死にたくないと思っている別の私も存在していた。「死にたい私」に殺されそうになっていた「死にたくない私」は、その人に助けを求めて電話をしようとしたのだ。
しかし、受話器を持ち上げようする「死にたくない私」を、「死にたい私」が押しとどめる。
「そんなことをしたって、無駄さ。何も変わりはしない。だから、諦めて、おとなしく死んでしまえ」
受話器の前で、私は長い時間戦っていた。最後の最後で「死にたくない私」が勝って電話をかけることができたのは、今思い返してみても幸運としか言いようがない。
私は電話し、その人の救われた。
私はその人の言葉を理解することはできなかったが、少なくともこの世界に一人だけは、私に死んで欲しくないと思っている人が存在していることを知ったおかげで、勇気を与えられたのだ。
私がその人に救われたのは、それが三度目だった。
その人と出会ったことによって救われ、その人の言葉によって救われ、その人の存在によって救われた。
たった半年の間に、三回。
私は、弱い。
あまりに、弱い。
もっと強くならなければ、と思う。
その人に救われなければ生きていけない自分を、卒業するために。
逆に、その人が苦しんでいるときに、勇気を与えられるような、そんな強さを備えた信頼に足る人間になりたい。
なによりも、自分自身のために。
「今」をより良くするために。
滝澤（2001/01/02）
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