『遠まわしな愛』
朝、出勤のために駅までの道を歩いていると幼稚園の送迎バスを待つ子供と、その付き添いの人たちの姿があった。
母親らしい女性がほとんどの中に、不機嫌そうな顔をした高校生くらいの年頃の若者がひとり混ざっていた。
その場の雰囲気にはそぐわない、すこしつっぱった感じの若者。
彼はポケットに両手を入れて背中を丸めた姿勢で、到着したバスに乗り込む子供を仏頂面で見送っていた。
その若者が、ふと片手を上げる。
手を、振ったらしい。
不機嫌な顔をして、でも、ちょっとだけはにかむような、やさしい雰囲気を漂わせながら。
若者と幼児との間にある事情を想像するのは、簡単だ。
しかし、事情を想像することは、無意味だ。
それがそこにあるのだから。
充分ではないか。
若者の姿を見た私の心に、ちいさな灯がともった。
一日、あたたかい気持ちで仕事ができそうだ、と思った。
滝澤（2000/12/17）
このページの作品に対するご意見・ご感想などは、E-Mail : maniactaki＠gmail.comまでお願いいたします。
※スパム対策のために「＠」を全角にして掲載しています。半角に直してお送りください。