『ヤキイモ屋の呼び声』

 広告は、不快でもいい。
 そう言われている。たとえ不快な印象であっても、まったく印象に残らないよりはマシだ、というのである。
 テレビに出演している人間にも、ある意味で不快なほどのアクの強さを持つ者が多い。それも、視聴者の記憶にイメージを残すための、方策なのだろう。

 さて、ヤキイモ屋である。
 この季節になると、近所をヤキイモ屋の軽トラックがのんびりと通過していく。
 と、ここまで書くと、「いしやーきいも〜」という呼び声を、誰もが想像するだろう。呼び声とともに、ホクホクのイモが頭に浮かんでくる。
 しかし、である。
 うちの近所に来るヤキイモ屋は、違うのだ。
 まず、言葉が不明瞭。何を言っているのか、まったくわからない。そして、リズムも音程も、ズタズタ。総合すると、断末魔のうめき声のような、背筋にぞわぞわっと悪寒が走るような呼び声なのである。それが、拡声機から流れている。

 記憶には、残る。
 いやおうなく。
 が、とてもではないが、買いたいとは思えない。あの不快な呼び声を耳にすると、売られているイモがうまそうには決して思えないのだ。最近は、普通のヤキイモ屋の呼び声を聞いても、不快な呼び声が思い出され、買う気が失せる。
 それでいいのだろうか?

 そして今日もまた、おそろしいヤキイモ屋の呼び声が聞こえる。
 ごめんなさい。
 その気持ちの悪い声、やめてください。
 全部買うから、二度と来ないでください。
 お願いです。


滝澤(2000/11/12)



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