『頭を乗せる女』
通勤電車は混雑する。
近くに女性がいる場合など、チカンに間違われないようにするために、手のやりどころにひどく気をつかう。
が、逆の立場だと、どうなのだろうか。
先日、混雑した電車内で、肩に重さを感じた。身動きができないために横目で見ると、ひとりの女性が私の肩に頭を乗せている。
前日に夜更かしでもして、眠っているのだろうか。
それとも、具合でも悪いのか。
途中の停車駅ですこし隙間ができたので、女性から体をはなした。が、女性はふたたび私の肩に頭を乗せる。驚いて女性見ると、女性は横目で私を見ながら、笑みを浮かべた。
眠いのでもない。具合が悪いのでもない。ただ、肩に頭を乗せたいのだ。それで、喜んでいる。
こいつ、絶対におかしい。
ぞぞぞ、と背筋を冷たいものが走る。
結局、その女性は途中の駅で降りていった。
おそらく、別の電車に乗り換えるのだろう。
そして、その電車内でも、めぼしい肩をみつけて頭を乗せるのだろう。
病んでいる。
私の 不快感とともに、彼女がいなくなったことによる損失感のようなものも、残っている。心のどこかで、もっと触れられていたかった、と私は思っている……。
肩には、まだ彼女の頭の感触が残っている。
私も、病んでいる。
みんな、病んでいるのかもしれない。
滝澤（2000/02/20）
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