『約束の地』
両親が老いた。
別に、今はじまったことではない。しかし最近、両親の会話の中に「あと十年は生きられないだろう」という言葉が聞かれるようになった。
十年。
両親とも、十年後でもまだ平均寿命よりも若い。しかし、心臓に病を抱える父と、脳性マヒで車椅子生活の母、どちらも弱気な「余生」の見積もりだ。
二人は、悲観的なのだろうか？
いや、それは違う。
残された時間が十年を切っているとして、それが何だ、という表情で、二人は語り合うのだ。来年は、何をしよう。再来年は、何をしよう。車椅子生活のせいで、以前から計画していた旅行には行けないけど、替わりにこうしよう。いや、リハビリをがんばれば行けるようになるかな。楽しみだね…。
「たった十年」ではない。
二人にとって、時間はまだまだ豊富に残されているのだ。
両親よりも死からずっと遠い場所にいるはずなのに、私はおびえている。
残りの年数がいくら、というレベルではなく、純粋に自分の持ち時間が限定されてしまっている、というその事実におびえているのだ。
私は二人のように、終わりの存在を受け入れることができるのだろうか。
距離が遠いからこそ、受け入れられないのかも知れない。両親のようにそれが身近になってきたとき、私にも受け入れられるようになるだろうか。
そして、その受容の瞬間こそが、克服の瞬間になる。
両親は、その次元へ到達できたように見える。
私は、そこへ行けるだろうか。
滝澤（1999/11/14）
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