『幸せな人』
幸せでいいですね、あなたは。
電車であなたの背負ったリュックが、私の腕にひっかき傷をつくっても。痛くてリュックを押し返すと、まるで激しく突き飛ばされたように心外な表情で私をにらむだけ。
いいのですよ、それで。
あなたは知らないだけなのですから。あなたが私を傷つけても、あなたがそれに気付かなければ、何の問題もないのです。
人は自分の認識できる領域の中でしか生きていけません。その認識の外で誰かを傷つけたとして、どうして気付くことができるでしょうか。それに気付け、と言うのは無理がありますよね。
だから、気付かなければ、何をしたっていいのです。
自分の幸せのためなら、知らぬうちに他人の幸せを踏みにじっていたって、ぜんぜん構わないのです。
簡単なことですよね。
残念ながら、私はそれができません。
生まれついての小心者で、ついつい「知らないうちに誰かの迷惑になっていないか」と気にしてしまいます。こんな生き方、肩身が狭いばっかりで、何の得にもなりません。
私もはやく、あなたのようになりたい。
お父さん、お母さん、どうして私にはそういう幸せな生き方を教えてくれなかったのかな。どうして、私に「認識できる領域の外側に別の世界が存在している」なんてことを教えちゃったのかな。
いや、きっと、「我々は教えてない」と言うだろうな。「お前が勝手に学んだのだ」と。「我々はお前が好きなものを学べるようにしただけだ。結果として何を学んだかは、すべてお前の責任だ」と。
そうだよね。
そう、私が悪いんだ。
あーあ。
はやく幸せになりたい。
滝澤（1999/07/04）
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