『選挙にちょっと詳しくなる』
全国的に、選挙である。
行政無線放送で、「投票しましょう」とうるさい。私はノンポリだが、ノンポリであるという意思表示のために、いつも白票を入れに投票所へ行っていた。その私が、今回は投票ができない。投票ができないゆえに、「投票しましょう」という声が耳障りに聞こえる。かなり、腹立たしい。
その経緯は、次のようなものだ。
選挙には、「選挙人名簿作成の基準日」というものがある。今回の選挙で言うと、不在者投票が開始される日の３ヶ月前、すなわち３月２４日。この日に、その自治体に住民登録のある選挙権保有者が、選挙人名簿に登録されるのだ。その後引っ越した場合でも、前に住んでいた自治体での登録は可能なのである。
さて、私は３月中頃に埼玉県から東京都へと転居した。埼玉で「転出届」を出したのが３月１６日（届出日）で、実際の移住は３月１４日（転出日）。埼玉では３月１４日に転出したことになり、埼玉での選挙権はその時点でなくなった。
仕事でドタバタしていた関係から、東京で「転入届」を出すことができたのが３月２５日（届出日）。しかし、申請用紙には実際の住みはじめに合わせて３月１４日（転入日）を記入した。
普通に考えれば、東京で選挙人名簿に載ってしかるべきである。ところが、いつまでたっても選挙のハガキが届かない。ハガキが盗まれでもしたかと思い、私は選挙管理委員会に電話をして、確認をとった。
「あなたの名前は選挙人名簿に登録されていません」
それが答えだった。
転入日は３月１４日でも、届出日が基準日以降だから、駄目なのだそうだ。
どこの阿呆が、そんなやりかたを発案したのだろうか。あまりに理不尽な話に、私は開いた口がふさがらなくなった。書類上、私の転居日は３月１４日なのだ。それは、埼玉でもらった「転出証明書」にも記載されている。なのに、転入の届出をした日が３月２５日にズレただけで、投票権がなくなってしまったのである。
３月１４日から３月２５日までの１１日間、私は住所不定どころか、日本国民でさえなくなってしまったというのだろうか。
私は、電話で選挙管理委員会の窓口の人間に言ってやった。
「私は税金をきちんと払って、国民としての義務を果たしているつもりです。なのに、国民としての権利は与えられないということなのですね」
「そう考えるかどうかは、それぞれ個人の問題です」
「でも、今回私に投票権がないのは事実ですよね」
「それは、諦めてもらうしかありません」
諦めろだぁ？ じゃあ、こっちが適当な理由をつけて税金を払わなかったら、国は諦めるのか？ ふざけるな、くそったれ。責任者出しやがれ。転入の届出日を基準にして選挙人名簿の作成を行うなんていうロクでもない方針を決めた阿呆を、呼んできやがれってんだ。
私は、そう言う気力さえ萎えて、無言で電話を切った。
こうして、私の選挙権は消えた。
以前にも増して、お役所のやることが嫌いになった。
しかし、選挙に関しては、少し詳しくなった。
ひとつだけ言える確かなことは、「選挙は国民の総意などではない」ということだろう。
ああ、平和な日本バンザイ。
滝澤（1998/07/12）
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