『リアリティ』
ＮＨＫで、ＩＲＡの話をやっていた。ＩＲＡというと、よく小説の題材にされていて、映画にもなった有名な「鷲は舞い降りた」などにも、登場する。テロリスト、スパイ、いずれも「お話」としてしか知らないものである。
テレビでやっていたのは、ＩＲＡ支持者の母と、ＩＲＡの活動を警察に内報していた兄、政治的には無関心な弟、という家族の話だった。スパイ行為が発覚した兄はイギリス政府の手引きで逃亡、弟は兄の行為の報復でリンチを受ける。母は兄の裏切りが許せず、「自分の手で殺してしまえば良かった」とさえ言うが、クリスマスに逃亡中の兄から電話がかかってくると、頬をゆるめる。弟は兄の行為の結果としてリンチを受けたにもかかわらず、兄を憎んではいない。
そんな中、兄は交通違反で裁判にかけられ、偽名を使ってＩＲＡから逃げている身分を明かさなければならなくなってしまう。イギリス政府から「売られる」形になった兄は、隠れ家を追われ、車で寝泊まりする生活に追い込まれる。弟は再度のリンチの予告受け、逃亡する。母は、政治組織としてのＩＲＡに対する支持と、テロリストとしてのＩＲＡに対する反発との間で、苦悩する。
こんな物語、実際に起こるとは信じられないほどである。しかし、実話なのだ。居場所をなくし兄の逃避行、リンチに怯える弟の震え、息子たちを気遣う母の涙、すべてが実在している。
よく「現実は小説より危なり」と言うが、もともと小説は現実の模倣でしかなかったのだな、と気づかされた話だった。
滝澤（1997/11/02）
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