『悪い虫』
またぞろ、悪い虫が騒ぎだした。
私は、モラトリアムの幻想を追いかけている。モラトリアムとは、広辞苑によれば「人間が成長して、なお社会的義務の遂行を猶予される期間。また、その猶予にとどまろうとする心理状態。」ということである。
おそらく、食べていく金さえあれば誰もが「勤労の義務」なんてものは果たさないのではなかろうか。社会的にどうこう言うよりも、自分としての時間が無為に奪われ続ける感のある現状の「仕事」というものが、私にとっては大きなストレスなのだ。
しかし、徹底的なモラトリアムの追及を私が行った場合に行き着く先は、だいたい想像できる。公園で寝泊まりし、廃棄されたコンビニの弁当を拾い食いし、一日中思索にふける。他者はどうでもいい要素となり、自己のみの世界にひたる。
これは、私の書いた小説「胡蝶の夢」やこのページのエッセイ「ＶＲとＲＲ」などにも見られるテーマなのだが、私個人の理性的な部分ではこのモラトリアムの追及を「危険なもの」として認識しているようだ。地に足のつかないもの、現実にそくさないもの。「他者の中での自己」という位置づけを不要と感じさせてしまう、恐ろしいものだ。
またぞろ、悪い虫が騒ぎだしている。
私は会社を辞める。あてもなく海外をぶらつく。何の保障もない生活。何の束縛もないように見える生活。そのくせ、自分自身にガチガチに縛られる生活。
畜生。
私は何を求めているんだろうか？
滝澤（1997/05/11）
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