『漂う風景』
兄はバイク乗りだ。これまで何度も話を聞かされてきたが、どうもその良さが判らなかった。無防備な格好で、高速で移動する。よく転んで怪我をしたとかいう話を耳にする。そんな危険な思いをしてまで、なぜ彼らは走るのか、私には不思議でならなかった。
たまたま、兄のバイク仲間にパソコンの基本的な使用方法を教えることになった。説明が終わった後に酒を飲みながら、いろいろな話をした。興が乗ってきたところで、過去のツーリングのビデオなるものが登場。場はたちまち上映会となった。
バイク仲間にはビデオ好きがいるようで、ていねいに編集されたビデオだった。バイクで走りながらハンディカメラで撮影された映像が、ゆっくりと流れていく。
風景が、漂っていた。後ろに流れていくのではなく、ゆらゆらと漂っているように見えるのだ。その中を、一緒に走っているバイク仲間たちが、手を振りながら通り過ぎていく。すれ違う見ず知らずのバイク乗りが、手を上げて挨拶していく。
これは、何だ？
画面の中で漂い続ける風景。そして、画面から漂ってくる、バイク乗りたちの不思議な一体感。
私は、バイクに乗ることの楽しみを、一瞬だけ垣間見た気がした。
バイクの免許を取れば、自分もあの中に身を置けるのだろうか？
形のない、しかし多くのものが漂っている、その世界。私はその見えないものに、憧れる。
滝澤（1997/03/23）
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