『一分間』
私の部屋には食器棚というものが存在しない。数少ない食器は、洗い篭の中に放置されている。
ある夜、ちょっとした用事で、電気をつけずに台所へ行った。そして、何気なく洗い篭の中をのぞきこむ。放置されたままの食器の輪郭が、暗がりの中でぼんやりと見えた。前日に使用したドンブリが、洗い篭の最上層に載っていた。ドンブリの上に、黒っぽい楕円形のものが見えた。
「ゴキブリだ！！」
私の部屋は、普段はゴキブリが出ないので、どこかから迷い込んできたものらしい。この寒い時期にご苦労なことだと思いながら、私は近くにあった新聞紙を取り上げて堅く丸め、大きく振りかぶった。
黒い影はまだ動かない。私は何の迷いもなく、渾身の力を込めて新聞紙を振り下ろした。食器の割れる大きな音が、室内に響き渡った。
間違いなく「黒っぽい楕円形」に新聞紙が命中したことを確信しながら、私はおもむろに台所の明かりをつけた。
明かりに照らされて、私はすべてを理解した。
「黒っぽい楕円形」は、ドンブリの表面に描かれた模様だったのである。
結果報告書 1997年3月1日 作成者・滝澤真実
1997/03/01-22:15:23
1997/03/01-22:15:31
1997/03/01-22:15:32
1997/03/01-22:15:47
1997/03/01-22:15:51
1997/03/01-22:15:52
1997/03/01-22:16:20
調査団より本部へ入電「目標の破壊を確認・損害は軽微なり」
滝澤（1997/03/02）
このページの作品に対するご意見・ご感想などは、E-Mail : maniactaki＠gmail.comまでお願いいたします。
※スパム対策のために「＠」を全角にして掲載しています。半角に直してお送りください。