『プレイスヒット』
カメラを買った。
興味を持ちはじめたのは、１年半ほど前になる。以来、時間がある時には、知人から借りたカメラで撮影に出かけるようにしてきた。しかし、ずいぶん長い間カメラが借りたままになっていることもあり、待望のボーナスが出たこともあり、ここいらで自分のカメラを、と思ったのだ。
ミノルタの一眼レフ、４万９８００円也。
さて、買ったカメラの使い勝手を確認するため、さっそく私は撮影に出ることにした。幸い、私の家は中山競馬場に近く、その途次には法華経寺がある。撮影対象には事欠かない。
私はぶらぶら歩きながら、競馬場方面へ向かった。
この季節、気をひかれるような色彩は乏しい。すでに何度も撮影に赴いている場所でもあるため、法華経寺ではほとんど撮影することなく、競馬場に入った。競馬場にはパドックという場所があって、出走前の馬を間近に見ることができる。私はそこで馬を被写体にして、写真を取った。
ファインダーの向こうを、均整のとれた美しい体つきのサラブレッドたちが通り過ぎていく。全部で１４頭。よく見ると、それぞれが違う個性的な顔をしていることが判る。目の小さいやつ、顔の大きいやつなど、さまざまだ。
と、１頭の馬とファインダー越しに目が合った。
私はカメラをどかし、自分の目でその馬を見た。穏やかで澄んだ目が、私を見返している。優しい、そしてどことなく悲しい色をたたえた目だった。私はその目に吸い込まれ、彼の心に触れたような気がした。
中山競馬、９６年６回５日、１２レース１３番、プレイスヒット。
結局、普段は１００円単位の馬券しか買わない私が、思わずプレイスヒットの単勝馬券を１０００円も買ってしまった。
そして、彼は走った。最後の直線で、集団から抜け出してトップの馬を追い上げる。しかし、トップとの差は思うように詰まらず、結果は４着。
力強く疾走し、最後まで全力を尽くした彼の姿を見て、私は心からの賛辞を送った。
よくやった。
そして、４着おめでとう。
今度、彼に会うために、旅行でもしようかな……。
滝澤（1996/12/14）
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