『実録・戦士たちの挽歌』
夜の静寂の中から、かすかな音が漂うように聞こえてくる。
「きたか…」
私はその音に集中しながら、ゆっくりと身構えた。一瞬、音は遠のいて聞こえなくなった。しかし、それが本当の戦いの始まりを意味することを、私は知っている。全神経を集中して、私は目をこらした。
瞬間、私の視野の隅に動くものが見えた。
「もらった！」
私の掌底が、確かな手ごたえとともに空気を切り裂く。ダメージを受けて床に転がったそいつに、わたしはかかとを落としてとどめをさした。
と、私の左手の甲に新なる敵の姿が…。
「くそぉっ！」
私の右手が、その左手の甲をしたたかに打つ。今回も、手ごたえは十分だった。
「ふっ、これで二十五匹。新記録だ……」
私は一人ほくそえみ、周囲を見回した。畳の上には、やつらの死体が折り重なっている。ゆっくりと右手を持ち上げると、左手の甲には、潰された蚊と血液の赤を見ることができた。
「ちっ、やられたか…」
左足の中指の第二関節、うなじのやや右に続いて、三つめのダメージだ。さすがに、そろそろつらくなってきた。「キンチョウリキッド６０日用」を使って、眠るとしよう。
私はかゆみを増してきたうなじを掻きむしりながら、思った。
そうとも、戦士にも休息は必要だ。
滝澤（1996/11/17）
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