『新発見』
物には値段がついている。
それが私にとっての新発見だった。
むろん、理屈では知っていた。物には値段がついていて、入手するにはその値段ぶんの金銭を支払わなければならない。
でも、その行為は無意識的におこなわれていたために、ちゃんとは理解していなかったのだ。スーパーに行っても、欲しい物を値段など気にせずに買い物カゴに放り込む。トータルとしていくら、というレジに表示される値段がすべてで、ひとつひとつの物にどんな値段がついているのか、知ったことではなかった。
無職生活が長引くにしたがって、前年の豊富な収入から算出された住民税と国民健康保険の支払額が、大きな負担となっていた。加えて家賃と光熱費などを支払うと、食費にまわす金銭はほとんどなかった。
外出時には、電車代を節約するために、途中下車して歩いた。
食費は1日100円以内に抑えるように心がけた。
そして、発見したのだ。
高いもの、安いもの。
季節によっても、店によっても、いろいろなバリエーションがある。駅前のスーパーでは100グラム168円で売っている食材が、駅から遠いスーパーでは100グラム58円で売っていた。逆に、駅前のスーパーで1キロ128円で売っている小麦粉は、駅から遠いスーパーでは238円だった。
無職生活の中で一番の収穫は、この発見だと言えるだろう。
今の夢は、スーパーでエビスビールと惣菜を買って、家で一杯やることだ。
もちろん、買うときには値段を気にせずに。
やはり私には節約生活なんぞ似合わない。なんたって私は、とても育ちの良い人間だからな。
育ちが良いから、仕事もコネだけでやってこられた。
就職活動の経験など、ゼロだったのだ。
まあ、そのおかげで、今回の転職活動には苦戦したわけだが。
あんまり育ちが良すぎるのも、考え物だな。
けけけ。
滝澤（2005/01/09）
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