『とどくかな』
アニメ「紅の豚」で、主人公の豚野郎は、こんなセリフを吐く。
（いい人、と言われて）
「いいヤツらは死んだヤツらさ」
とか、なんとか。
当時はなんとなく聞き流していたのだが、その言葉の裏に込められた心情は、非常に深い。宮崎駿、やっぱりタダ者じゃない。
友人、二名。
一人は私の一歳上。血便が出たために、内視鏡の検査を受ける。腸のガンか。良性のポリープか、それとも、ただ何かのはずみで腸が切れただけか。心配である。
もう一人は、二歳下。子宮外妊娠で、卵管から出血。発見が遅れたため、もう少しで命を落とすところだったらしい。手術をして、子供は流れ、今は入院中。
私のように性格が捻じ曲がった人間には、そういう不幸はおとずれない。
不幸は、いいヤツらのところにばかり、訪れる。
憎まれっ子、世にはばかる。
まさに、この言葉の通りだ。
人は、祈り、願う。
それでも、病気は、避けられないだろう。ある日突然、ふってわいたように体が壊れ、描いていた人生設計が破壊される。
それでも、人は祈ることをやめないだろう。
花村萬月は、小説「イグナシオ」の中で「祈りは、かならず、とどく」と書いたが、 そんなのはウソだ。
私は、信じない。そんなことが可能なら、世界はもっと美しいはずだ。醜い事件が発生して、前途のある人たちが死ぬはずがない。
だから、私は「祈ればとどく」なんてたわごとは信じない。
そんなことは、わかっている。
わかりきっている。
なのに、私は、信じたい。
私が祈ることで、誰かが救われるだろか？
いいや。
私が願うことで、現実が変わるのだろうか？
いいや。
なのに、なぜ、こんなにも祈りたいのだろう。
私は、祈る。
血便が出た？ 手品の練習してて、かみそりの刃でも飲み込んだんだろ。腹減ってるからって、変なもん食べるなよ。傷は、すぐにふさがるさ。
子宮外妊娠？ 前から普通の人間じゃないと思ってたが、妊娠する場所も普通じゃなかったな。まあいい、また作ればいいじゃないか。
そう言って笑いあえるように、私は、祈る。
滝澤（2002/07/28）
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