『日本酒ゲッチュー』
父は日本酒専門の、大酒飲みである。
その噂は方々に広がり、仕事柄もらい物の多い父のところには、数多くの日本酒が集まってくる。
たまに実家に顔を出すと、私が日本酒をもらえるのは、そんな理由からだ。
今回もらったのは、「越乃寒梅 純米吟醸」四合瓶、「八海山 純米吟醸」一升瓶。
なんとまあ、豪華な。
値段は知らないが、どちらも入手困難ながら非常にうまい酒なので、ひとりで飲んでしまうのがもったいないくらいである。かと言って、一緒に飲めるような誰かがいるわけでもなし。
今、滝澤と付き合うと、越乃寒梅プラス滝澤の手料理の肴をもれなくゲットできる！
なーんて。
そんなところを売りにしても、しょうがないし。
あー、誰かいないかなぁ。
などと言って、うかれている場合ではない。
実は、今回これだけの酒をもらうことができた背景には、別の理由が隠されていたのである。
そもそも、うまい酒は自分で飲んでしまうことが多かった父である。
その父の、酒量が減ってきているという。
貴重かつうまい日本酒のボトルがずらりと並ぶさまを眺め、父は何を思ったのだろうか。数年前ならば、その味を堪能することのできた酒。飲む量が減り、結果としてもてあましてしまった酒。うまいことがわかっているのに、飲めない酒。
実家に行っている間、父には会えなかった。
そもそも、父がいないから、母の様子を見に実家へ行ったわけなのだが。
今夜あたり、電話をしてみようと思う。
今日仕事から帰ってきた父は、きっと、酒を飲んでいるに違いない。
そう祈って。
滝澤（2001/07/01）
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