『街灯の消えるとき』

 久しぶりに、仕事で徹夜をした。
 夜明け頃、ようやく一段落ついたため、朝食を買いに外に出る。
 身を切るような寒風にふるえながら、静かで透明な早暁の空気を味わった。
 誰もいない道。
 ガラスのような世界。

 ふと見上げると、街灯がともっていた。
 すでに明るくなっているのに、である。
 街灯は、いつ消えるのだろうか。私は街灯が消える瞬間を見てやろうと思い、その場にしばらく立ち止まっていた。
 が、とにかく寒い。
 なので、街灯が消える瞬間を見ることはあきらめ、私は先を急ぐことにした。
 コンビニで朝食のおにぎりを仕入れた帰り道、見上げると街灯は消えていた。
 いつの間にか、人知れず、消えていた。

 私は、街灯に似ている。
 夜の間、人は街灯を必要とする。
 しかし、夜が終われば、街灯などをかえりみる者など、どこにもいないのだ。
 そして街灯はいつまでも一人で立ちつづけ、人知れずに消えていく。

 そう、私は街灯に似ている。

 実は、私は、その理由も知っているのだ。
 なぜなら、私自身が、他人を街灯のように扱っているから。
 人を憎む者は、自身も憎まれる。
 人を愛せぬ者は、自身も愛されない。
 そして、人を街灯のように扱う者は、自身も街灯のように扱われる。

 いつの日か、私という名の街灯は消えるだろう。
 永遠に。
 かつて私を照らしてくれた人も、私が照らしてあげることのできた数少ない人も、くだらぬ街灯のことなど忘れてしまうに違いない。
 どんなに頑張っても、ごく弱い光しか出せない街灯。
 いや、もしかすると、明かりがともることなどない街灯なのかもしれない。
 歪んで、汚れた、奇形の街灯。

 ああ、世界はこんなにも透明で美しいのに。
 私はただ、消えるだけ。


滝澤(2001/03/11)



前へ  次へ


| 紡ぐ | 叫ぶ | 呟く | 繋ぐ | 跳ぶ | 企む | 語る | 表紙 |





このページの作品に対するご意見・ご感想などは、E-Mail : maniactaki@gmail.comまでお願いいたします。
※スパム対策のために「@」を全角にして掲載しています。半角に直してお送りください。