『その理由』
久しぶりに、懐かしい面々と会った。彼らは一様に、私に対して親しげであった。皆が私の近況をたずね、私は言葉少なにそれに答えた。
「久しぶりだね、今は何をやってるの？」
「不真面目な会社員です」
「どういった関係の仕事？」
「コンピュータ関係です」
「なんか、海外に行って行方不明になったって聞いたけど」
「海外には行きましたけど、そんなことないですよ」
「どのくらい行ってたの？」
「５週間くらい」
「あ、そんなもんなんだ」
「そんなもんなんです」
「でも、無事に帰って来れて良かったね」
「ありがとうございます」
不思議だった。
なぜ私の近況を聞きたがるのか。なぜ私の話を聞きたがるのか。そして何より、なぜ彼らは私に対して親しげに振舞うのだろうか。
私はかつて、彼らの下でアルバイトとして働いていただけである。日々の労働に追われ、彼らと親しくなるようなことは何ひとつした記憶がない。私は自分のことだけで精一杯になり、彼らのことを省みたことさえない。なのに、なぜ？
非常に嬉しいが、複雑である。
私は何もしていないのに。私は自分のことしか考えていない最低の人間なのに。
彼らは私を誤解している、と思う。
もしかしたら、私は自分で考えているほどひどい人間ではないのかも知れない、とも思う。そして、それは傲慢な思い上がりだと自省する。
どちらなのか、理由が判らないからその答えもわからない。
滝澤（1999/04/04）
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