『司会はつらい』
知人の結婚式で司会をやった。
「まあ、気軽なパーティ形式だから、適当にやっちゃっていいよ」などと言われていたのだが、そう言われて適当にできるかというと、そういう訳にもいかない。結婚する二人の一生に一度のイベントを、台無しにすることはできないのだ。
むろん、あがる。
声は震えるし、「忌み言葉」を言ってしまって頭の中が真っ白になるし、敬語がぐちゃぐちゃになるし、もう、大変。
慣れないスーツ、慣れない靴で立ちっぱなしで、膝も腰もガクガク、精神的な疲労もはなはだしい。
せめてもの救いは、パーティの最後のほうで花嫁が両親への手紙を朗読する場面、花嫁が泣き出してしまったことだった。他人が泣いたのを「救い」と言ってしまうのも何だが、そのおかげでとても感動的なパーティになったのである。花婿ももらい泣き。花嫁の兄ももらい泣き。私と一緒に司会をしていた相棒ももらい泣き。やはり、終わりよければすべてよしというのは、本当らしい。
面白いのは、花嫁の父は実にあっけらかんとしていたこと。花嫁の父が泣かずに花嫁の兄が泣く、というのは実に興味深いではないか。そして、もらい泣きしてしまった司会の相棒は、花婿の会社の同僚（女）。なんだかヤバいよなあ、泣く人が違うと。
頭が真っ白になった上に司会の相棒が泣き出してしまったので、終盤私は過酷な司会進行を世余儀なくされた。いや、もう疲れたのなんのって。
ともあれ、パーティも終了。二人の幸せを祈るとしよう。
でも、人の結婚を見ると、自分もしたくなるんだよなあ…。
おまけ −結婚式の忌み言葉−
去る 帰る 戻る 返す 離す 飽きる 嫌う 破る 薄い 疎んずる 褪せる 冷える 浅い 再び 病む 破れる 滅びる 重ねる 死ぬ 壊れる 憂い 痛ましい 終わる
滝澤（1998/01/11）
このページの作品に対するご意見・ご感想などは、E-Mail : maniactaki＠gmail.comまでお願いいたします。
※スパム対策のために「＠」を全角にして掲載しています。半角に直してお送りください。