ぼくの体には大きな穴があいている
今日も冷たい風が、その穴を吹きぬけていく
寒いよ
そして、さみしい
ぼくの体には大きな穴があいている
さみしいと思えば思うほど、その穴は大きくなっていく
痛いよ
そして、くるしい
いつか、穴はぼくの体をおおいつくすに違いない
ぼくは穴に飲み込まれて、最後にはぼくの形をした穴だけが残る
だとしたら、ぼくは何なのだろう
ぼくは人間？
ぼくは穴？
いやだよ
ぼくは穴になんかなりたくない
この大きな穴を、どうにかしてふさがなくちゃ
ぼくは穴に食べ物をつめこんだ
でも、すぐに悪臭がしてきて、捨てなきゃいけない
ぼくは穴に服をつめこんだ
でも、すぐにゆるんで、抜け落ちてしまう
ぼくは穴に音楽を流しこんだ
でも、音は穴を素通りして、なにも残らない
ぼくは穴に小説を流しこんだ
でも、言葉は穴を素通りして、なにも残らない
ぼくは穴に自分の手を入れてみた
手は穴の中に消えて、ぼくが完全に消えてしまう日がちょっとだけ早まった
ぼくは穴に他人の手を入れてみた
何も起こらず、穴はちょっとだけ大きくなった
ぼくに必要なのは、穴を埋めるための何か？
それとも、穴を覆い隠すための何か？
穴なんかに負けない、強さ？
わからないよ
寒くてさみしいのはイヤだ
痛くてくるしいのも、イヤなんだ
でも、穴はいつも、ぼくとともにある
ぼくの穴
かたくなな、ぼくの穴
ぼくは、穴になんかなりたくない
でも穴は、ぼくになりたがっている
ぼくは、ぼくになりたい
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